相続土地国庫帰属法について
土地を相続によって取得しても、価値がなく売却も賃貸もできず管理だけで大変ということがあります。
そういった土地は、相続登記もされず放置されることが多いです。
そうすると、登記簿の名義も何代も前の被相続名義で、所有者が直ちに判明しない土地(いわゆる所有者不明土地)となり、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引が阻害されるなど、土地の利活用を阻害することになるようです。
そのため、相続した土地を国に帰属する制度(相続土地国庫帰属法)がつくられました。
施行日は令和5年4月27日ですが、次のとおり要件などもあり簡単に国庫へ帰属できるかは今のところ不明です。
また、令和4年8月4日、相続土地国庫帰属法の政令案が公表され、国民の意見を聴くためのパブリックコメントの手続に入りましたので、あわせて記載します。
申請者の要件
以下のいずれかに当てはまる方が、土地を国庫に帰属させる申請ができます(本法律2条1項2項)。
- 相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地を取得した者
- 土地が共有の場合、共有者のいずかれが相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地を取得した者であって、共有者全員で共同して申請する必要があります。
申請できない土地
次の土地は、申請できないと定められています(本法律2条3項)。
- 建物の存する土地
- 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
- 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
政令案
墓地、境内地、現に通路・水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地
- 土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
国庫への帰属を承認しない土地
申請ができても、以下に該当する場合は、国庫への帰属は承認されません(本法律5条)。
しかし、条文をみると、「該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。」とありますので、次の要件に該当しない限り、国は承認する義務があります。
- 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
政令案
勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの
- 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
- 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
- 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
政令案
・隣接所有者等によって通行が現に妨害されている土地
・所有権に基づく使用収益が現に妨害されている土地
- 前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
政令案
・土砂崩落、地割れなどに起因する災害による被害の発生防止のため、土地の現状に変更を加える措置を講ずる必要がある土地
(軽微なものを除く)
・鳥獣や病害虫などにより、当該土地又は周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがある土地(軽微なものを除く)
・適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が追加的に必要な森林(軽微なものを除く)
・国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地
・国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地
負担金の納付
国庫への帰属が承認されたときは、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した負担金を納付する必要があります(本法律10条)。
政令案
- 土地・・・面積にかかわらず、20万円(ただし、一部の市街地の宅地については、面積に応じ算定)
- 田、畑・・・面積にかかわらず、20万円(ただし、一部の市街地、農用地区域等の田、畑については、面積に応じ算定)
- 森林・・・面積に応じ算定
- その他(雑種地、原野など)・・・面積にかかわらず、20万円
申請人の負担軽減を目的として、政令案第5条の規定により、承認申請者は、法務大臣に対し、隣接する2筆以上の土地について、一つの土地とみなして、負担金の額を算定することを申し出ることができる。
負担金算定表は、相続土地国庫帰属法の政令案を確認ください。
また、負担金の他に申請手数料が必要となります(本法律3条2項)が、こちらも現在のところ規定されていません。
今、どうすればいいのか?
政令案が示されましたが、承認までの時間など実際の運用はどうなのか施行されないと分かりません。
多くの方が関心のある法律だと思いますので、私たちも注意深く状況を引き続きみていきたいと考えています。